競馬は記憶の勝負

競馬は記憶の勝負と、よく言われる。
馬の成績やレースのパターン、コースの特徴、騎手のクセなどなど、憶えて馬券に活かしたいことはたくさんある。しかし自分の場合、競馬に関して記憶していることは少しずれている気がする。レース観戦及び馬券購入場所、競馬場で起きたレース以外のこと、レース後の飲みなど、そんなことばかりなのだ。
有馬の場合もその傾向は顕著で、馬券戦術に繋がるような記憶はほとんどなく、パドックで無関係なことを声高に喋り捲る一団に辟易したことや、船橋法典までの帰り道の寂しさ、スタンドでレースを見ながら飲んだミルクコーヒーの温かさ、帰りに食べた蕎麦などが思い出される。
最も印象深いのが1998年。最近は前売り入場券は不要になったようだが、その頃はまだ必要で、WINSなどで事前に購入してから中山に臨まねばならなかった。しかし、その年は前売り入場券を購入できなかったため、馬券は後楽園で購入し、中山には入場券が不要になる発走ギリギリの3時過ぎに行くことにした。
当時の自分は、有馬はその年の菊花賞馬が強い、と信じていたので、セイウンスカイ本命、対抗メジロブライト、穴にステイゴールドとしていた。
しかし、後楽園が混雑していて馬券購入に手間取り、船橋法典に到着したのは3時15分頃。これではレースも見れないと焦り、地下道を走りに走った。発走したのはちょうど内馬場に辿り着いたときだった。
荒れた内馬場を気にして大回りに逃げるセイウンスカイの灰色の背中が遠くに見えた。しかし、4コーナーでセイウンスカイの手ごたえは怪しくなり、難なく抜け出したのはグラスワンダー。それを知ったのは内馬場の寒空に反響する場内放送だった。
レースを見ようと必死に走り、満足に見れないまま負けたことを知って、あれほどレース後に力の抜けた有馬もなかった。
悔し紛れに内馬場で食べたのは、後の祭りのカツカレーだった。
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